岩手三陸の玄関口としての役割を担う、道の駅高田松原と東日本大震災津波伝承館
2022.03.31

道の駅高田松原・東日本大震災津波伝承館
岩手県陸前高田市を通る国道45号線と国道340号線の交差点に位置する「道の駅高田松原」と「東日本大震災津波伝承館」。三陸観光のゲートウェイ機能として、2019年9月のオープン以降、全国各地からたくさんの人が訪れる、岩手三陸の観光拠点となっています。
東日本大震災から、岩手県陸前高田市は、まちの復興や地域に住む人たちの心の復興のための歩みを進めてきました。
高田松原の海岸沿いにある「道の駅高田松原」と「東日本大震災津波伝承館」は、三陸沿岸地域の玄関口として、多くのお客様を迎え入れています。
各施設の運営・管理を行っているお二人に、お話しを伺いました。道の駅高田松原で旅行観光事業などを担当する竹田耕大さんと東日本大震災津波伝承館主任主査の高橋伸也さんです。
株式会社高田松原スタッフ竹田耕大さん
未来の賑わいをつくっていく、「道の駅高田松原」
道の駅の施設内は、食堂が2店舗、コーヒーショップや売店もあります。そのほか、地元の水産物や農産物、三陸地方の特産品を味わい、触れることができます。竹田さんは、観光事業のほかに、直営飲食店「たかたのごはん」の担当もしています。
「人気のメニューが「たかた丼」です。広田湾で採れたカキ、三陸産のメカブとイクラ、コメは陸前高田市のオリジナルブランド米のたかたのゆめを使用しています。三陸ならではの食材を使った海鮮丼なので、陸前高田に来たら、ぜひ、食べていただきたいです」
近年、三陸産のサケの不漁で、イクラが採れない状況にあると話す竹田さん。そんなピンチをチャンスに変えたのが、「三陸産と外国産のイクラの食べ比べ」です。現在はご飯の上に、2種類のイクラをのせて、「ぜひ、味の違いを楽しんでください」と提供しています。大きさや食感、色味など違いが実感でき、食事をしたお客様にも喜ばれているそうです。
竹田さんが個人的におすすめするメニューも紹介してくれました。
それが、「ポークジンジャーカレー」。住田町で育てられたブランド豚のありすポークと、三陸の自然が育んだ三陸ジンジャーを使ったカレーです。豚肉をお酢でつけて下味をつけることにより、酸味とショウガの爽やかな辛味となっています。
「『三陸は海だけじゃなく、陸のものも美味しいんだよ』と発信したい想いでこだわって作りました。食を通して、ぜひ地域に触れてほしいなと思って、商品開発をしています」
冷凍販売されているポークジンジャーカレー
こちらのカレーは、物販エリアで冷凍食品としても販売しています。常温のアルミパックではなく、そのままの美味しさをご自宅でも楽しめるように試作を重ねた結果、冷凍食品として販売することが、一番おいしく食べてもらえると考えたそうです。
そして、道の駅と言えば売店でのお買い物が楽しみの一つ。海産物販売エリアでは、三陸で採れたカキやワカメなど。農産直売エリアでは、リンゴや収穫されたばかりの新鮮な野菜を購入する事ができます。様々な商品が並ぶ物販エリアでは、陸前高田市のご当地ドリンクとして親しまれている、神田葡萄園の「マスカットサイダー」をはじめ、お菓子などの加工品や工芸品など、陸前高田の様々な産品を揃えています。
新しいかたちの道の駅を目指して
最後に今後の展望について、竹田さんにお伺いしました。
「道の駅は、単なる小売業ではなく、市内はもちろん、三陸や岩手の観光の拠点になる場所だと思っています。陸前高田=被災地というイメージで来られる方が多いですが、実際に来た方に『陸前高田って面白い!』と、いい意味で期待を裏切れるコンテンツを地域の皆さんとつくっていきたいですね」
2021年3月には岩手県登録旅行業者として認可を受けました。市内を自転車で巡るサイクルガイドツアー「TAKATA PUTTER CYCLE」や、震災遺構や高田松原津波復興祈念公園を活用したガイドプログラムもスタートしました。
「これから、市内の宿泊事業者さんと連携して、新しい賑わいを創出できればうれしいです」とも話してくれました。
過去の記憶を伝える、「東日本大震災津波伝承館」
「海を守り、海と大地と共に生きる」という展示テーマを掲げている、東日本大震災津波伝承館。
ここからは、高橋さんにお話しを伺いました。
「日本列島は、特に自然災害の危険性が高い宿命の地なんですよね。2011年3月11日の悲しみを繰り返さないためには、知恵と技術で備え、自ら行動することによって、自然災害を乗り越えていくことが重要なんです。そのために、先人の英知に学び、東日本大震災津波の事実と教訓を共有して、自然災害に強い社会を一緒に実現することを目指しています」。
後世に伝承するとともに、三陸がこの自然災害を乗り越えて復興していく姿を、支援への感謝を込めて発信することを目的としています。
伝承館の展示は、4つのゾーンに分かれています。
入口を入ってすぐのゾーン1は、地震による津波はどういうメカニズムで発生していくのか。三陸において、どのような津波災害が起こり、それに対してどういう備えが積み重ねられてきたのか。「歴史をひもとく」展示内容になっています。
ゾーン2にうつると目に飛び込んでくるのは、流失した気仙大橋の一部と被災した消防車両です。目にした瞬間、胸が苦しくなるのと同時に、津波の大きさや恐ろしさを感じます。
「来館者が思わず声を上げてしまう展示物です」と話す高橋さん。
東日本大震災津波に焦点をあてて、その時に起こったこと。被災した実際の物、被災の現場をとらえた写真、被災者の声や記録などを通して、事実を見つめることができます。
被災した消防車両
ゾーン3では、東日本大震災津波の時の人々の行動を分析しながら、命を守るための教訓を発信しています。
高橋さんは、「一番重要なゾーンと捉えています。震災津波から命を守る行動、救命救急活動や避難生活にどういう事実と課題があったのか。これからの自然災害に向けてどう備えていけばいいのか。訪れた人に考えていただく展示になっています」と話します。
「復興を共に進める」ゾーン4は、期間限定の企画展示を行っています。イベントなどを開催しながら、東日本大震災津波を乗り越えて進んでいく被災地の姿を伝え、震災からの復興とはどういうことなのか。共に考えていくことができます。常設展示では、紹介しきれない部分を、ゾーン4を使って設けています。
「伝えていくこと」を仕事に選んだ理由
展示を見るにあたって、施設の最大の特徴が、解説員の存在です。10名の解説員のうち、英語、中国語対応ができる人が各2名。解説員は、展示の中身を事実に基づいて客観的に伝え、東日本大震災津波について解説しています。
解説員になって1年半の高橋真弓さんは、大船渡町のご出身。「津波に対して、どこか煮え切らないところがあった」と話す真弓さんも、被災者の一人です。
「なぜ、解説員になったのか、正直自分でも分からないです。でも、津波についてもっときちんと知った方が、自分の気持ちが消化できると思いました。3月11日、周りのおじいちゃん、おばあちゃんに『危ないから避難しよう!』と言ってもダメで、避難させることができなかったんです。もっと知っていれば、もっと勉強しておけば、ちゃんと防げたと思うと......。その後悔が一番大きいですね」。
解説員の高橋真弓さん
働くようになり、津波と地震のメカニズムや、どういった取り組みをしているかなどを知ってから、経験していない人たちにも知ってもらいたいと強く感じたそうです。
「自分ごとにしてほしいと思いますが、それは難しいこと。でも、正しく備えるために、知識をつけて考えることはできると思うんですよね」。
真弓さんは、人に伝える難しさを感じながらも、これからもお客様と向き合い、一人でも多くの方へ備えることの大切さを伝えていきます。
現地現物で触れて、五感で感じてもらえたら
最後に、これからの役割について、高橋さんが話してくれました。
「オープンから、47万人と大変多くの方にお越しいただきました。これからもより多くのお客様に来ていただいて、東日本大震災津波の事実と教訓について、少しでも学んでいただけたらと思っています。特に、学校の児童や生徒さんたちなど、次の世代の方々に、きたるべき自然災害に備えていただく。将来の防災減災の担い手になってもらうため、大きな意味があると思っています」。
お客様へ解説をしている様子
新型コロナウイルスの影響により、人の流れが随分変わってきたと話す高橋さん。そういった状況に対応する形で、来場が難しい方へはオンラインやリモート学習も新たに取り入れています。
「リモート学習で当館に触れてもらった人たちが、コロナが収束した後に実際に訪れてもらえたらなと、大きな期待をしています」。
「震災津波について学ぶなら、『岩手三陸』といった学習フィールドになっていくような取り組みや情報発信に力を入れていきたいです」。とも話してくれました。
毎年3月11日は、静かに追悼の意を捧げるとともに、2度とあの悲しみが繰り返されないよう、より多くの方へ伝承していくことの大切さを、実感する日でもあります。
道の駅高田松原ホームページ https://takata-matsubara.com/
東日本大震災津波伝承館ホームページ https://iwate-tsunami-memorial.jp/
このページをSNSでシェアする