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191億円もの鳥獣被害を被災地の企業が食い止める!

2017.08.04

小野精工株式会社

昭和22年創業。宮城県岩沼市で精密機械部品や金型、プレス部品などの製造、販売 をしています。平成5年には、日本初の薄型カセットコンロ「味好(みよし)」を開発、グッドデザイン賞を受賞。薄型デザインが評価され、商品写真が工業高等学校デザイン課の教科書に10年間掲載されました。昨今では、これまでに培ってきた技術力を生かし、「役に立つことに取り組みたい」との思いから農地を鳥獣から守る装置を開発するなど、新たな挑戦をしています。
※写真:「逃げまるくん」導入後、田畑への害獣の被害はゼロになり、収穫量も増加!

金属加工技術を生かし、鳥獣被害を食い止めるために立ち上がった

宮城県岩沼市にある小野精工株式会社は、精密部品加工の製造業。従業員35人のアットホームな雰囲気の企業です。昭和22年の創業以来、確かな技術力と革新的な発想で、精密治工具や金型、プレス部品などを創り出してきました。

同社が開発した「逃げまるくん」は、レーザー光で鳥獣を撃退する装置。動物が嫌うレーザー光を数秒おきに田畑に照射することで、イノシシなどの害獣を寄せつけず、農作物を守るものです。太陽光と蓄電池で稼働するので、畑の真ん中や山林など電源がない場所でも使用できるのが大きな特徴です。

一見畑違いとも思える新しい挑戦に取り組んだきっかけは、東日本大震災後、福島県や岩沼市内でもイノシシの被害が増加しているというニュースでした。農林水産省によると、イノシシをはじめ、シカやサル、鳥類など害獣による農作物の被害は、全国で年間約191億円(平成26年度)といわれています。

「自分たちが丹精込めて育てた農作物を、害獣に荒らされても何もできない。だけど、わらにもすがりたい思いでいる農家の方のために、何かできることはないかと考えました」と代表取締役会長の小野宏明さんは振り返ります。

「我々は製造業です。これまでの事業とは方向性が違いますが、装置づくりという点では関連性がある」と、通常の事業を続ける傍ら開発チームを結成。「逃げまるくん」の開発に着手しました。

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ソーラーパネルで稼働するシステムのほかに、家庭用電源で稼働するタイプもあります。

強い信念が、新しい道を切り拓く

害獣を撃退するのに、なぜレーザー光なのか。小野さんは「動物は本能的に目を守ろうとします。真夏のギラギラした太陽は、肉眼では直視できませんよね。動物もそれと同じで、強い光を嫌います。その習性を利用しました」と解説します。田畑を荒らしに来た害獣たちの目に強力なレーザー光が目に入ると、照射している区画には近寄らなくなるそうです。昼間は緑、夜間は赤と時間帯に合わせて動物が嫌がる色に切り替わる仕組みになっています。「逃げまるくん」は薬剤などを使用しないので、田畑はもちろん、ほかの動物や鳥類、昆虫などの生態系も守り、農業従事者や地域住民の健康への影響もありません。ただし、人はレーザーの発光元を直接のぞかないで下さい。

では、どのようなレーザーを使うのがより効果的で、コストを抑えられるのか。開発段階で小野さんがいちばん苦労したのが、使用するレーザーの選定と装置の形状をどのように作り上げるか、ということでした。大きくてコストのかかる工業用のものではなく、もっとコンパクトなものを求め、小野さん自ら東京方面に出向いたり、インターネットで取り寄せたりしました。一般的なペンタイプの小さなレーザー装置を束にしてみたりするなど、あらゆるレーザー装置を使い、試行錯誤を繰り返したのです。

開発チーム一丸となって「絶対成功する!」と、製品化に向けて、希望を失うことはなかったと言います。「ものづくりは、0から100を生み出す作業。"無"ということなく、必ず"有"なんです。人間の頭で考えたものは、すべて実現していると思います」という小野さんの揺るぎない信念に、チームは支えられてきました。

開発からおよそ2年の歳月が過ぎたころ、ついに「逃げまるくん」が完成しました。

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「必ず"有"となるものを生み出す」と強い信念を持つ小野社長。

導入後の被害はゼロ。農家の救世主に!

「製品を普及させるためには、裏付けとなるデータや実績が重要」と考える小野さんは、販売に先駆けてモニター調査を実施しました。

サトイモやジャガイモ、葉物野菜などを育てている農家ではこれまで、芽が出るとイノシシに荒らされていたと言います。畑の周りに電気柵を付ける対策を講じても、その柵を飛び越えて侵入されるため、今後の農業をあきらめざるを得ないほどの深刻な被害を受けていました。しかし「逃げまるくん」導入後は、害獣被害はゼロになったそうです。また、昨シーズンはタケノコの収穫直前にイノシシに食い荒らされ、ほぼ全滅だった岩沼西部地区でも、導入後の被害はありません。見えないフェンスの効果に、モニターとなった農家の方々からは、「効果抜群!」「農家の救世主となる」と喜びの声が寄せられています。

さらに、実際に使用したモニターからの声で、畑以外にも活用できることも判明しました。たとえば、仙台空港からほど近い仙台カントリ―倶楽部などのゴルフ場では、イノシシにグリーンを荒らされていましたが、導入した区画では被害がありませんでした。害獣がこのエリアは危険だと学習して寄り付かなくなれば、レーザーを照射した区画の周辺も守ることになり、より高い効果を得られることがわかってきたのです。

小野さんは、「集まったデータを分析し、新たな展開を考えているところ」と話します。「逃げまるくん」は農作物を守るだけでなく、建物や人を守ることにもつながるのでは、という期待が高まっています。夏のキャンプ場や林間学校で、クマを寄せ付けずキャンプ客や子どもたちの安全を確保したり、重要文化財に指定されている木造の古い建造物に住みつくアライグマなどによる汚染被害を軽減できるかもしれません。

「逃げまるくん」の応用範囲は多岐にわたり、汎用性の高さも注目されています。

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宮城県岩沼市に社を構える小野精工。

野生動物との共生・共存を、東北の地から全国へ

小野精工の社内には、企業理念である「誠意、熱意、創意」の言葉が掲げられています。小野さんのようにものづくりと真摯に向き合い、ひたむきな情熱を持続する秘訣はあるのでしょうか。

「性格的なこともあるかもしれませんが、やろうという責任感。創意工夫を常に考えながら新しいものを生み出すのは、人間の基本ではないでしょうか」

そんな小野さんが目指すのは、人間と野生動物の共生・共存する未来です。「そもそも人間の手による開発で自然界ではエサがなくなった動物たちが、エサを求めて人里に現れるようになった。"逃げまるくん"を利用することで、動物を傷つけずに自然界へ戻す。それで生態系も、自分たちの生活も守れます」と話し、共存できる環境をつくり出すことに使命を感じています。

「製品を作ることはひとまず成功しました。ですが、世の中に広く普及してはじめて成功と言えるのではないでしょうか。それが100年後の未来へとつながっていくんです」と先を見つめます。

今年4月に「逃げまるくん」の販売をスタートすると、すぐに岩沼市や農業協同組合が購入。現在は、必要としている地域の農家へ貸し出すなど、幅広く活用されています。東北地域だけでなく、山梨県や熊本県をはじめ全国の自治体や農業関係者など、多方面からの問い合わせも増えているそうです。

「装置自体をもっとコンパクトにしたり、盗難防止の装置をつけたりと、まだまだ課題はありますが、まずは行政や農協などの団体に害獣撃退の効果を知ってもらいたいですね。そして、もっと多くの必要とされる場所、人に普及させていきたいです」という小野さん。「急がずゆっくり取り組んでいく」と、その強い信念を静かに燃やしています。

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小野精工の企業理念。社内に入ってすぐ目に入る位置に掲げられていました。

小野精工株式会社

宮城県岩沼市相の原三丁目4-9

HP
https://onoseiko.com/

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