"自分でつくる"ことを楽しみながら 捨てられる傘がなくなる日を目指す
2016.11.15
CASA PROJECT
「CASA PROJECT」は、宮城県気仙沼市を拠点に取り組まれている、「不用になった傘を新しく生まれ変わらせるプロジェクト」。壊れたり忘れ去られた傘の素材を生かしてリメイクしたり、実際にモノづくりを体験できるワークショップなどを行っています。不用になった傘は一見するとただのゴミですが、少し見方を変えるだけで、魅力的な素材として新しく生まれ変わらせることができます。「自分でつくる」「つくりながら暮らす」というライフスタイルを提案し、捨てられる傘がいつかなくなることを目指しています。
日常生活にあふれている不用になった「傘」
雨の日に電車に乗っていると「傘などの忘れ物が多くなっております」というアナウンスをよく耳にしませんか。電車内の傘の忘れ物は年間で約30万本とも言われています。コンビニなどで簡単に傘が買えるため、使い捨て感覚で傘を使っている方も多いと思いますが、この「傘」という素材に注目し、活動しているプロジェクトをご紹介します。
傘を魅力的な「素材」として生まれ変わらせる
「CASA PROJECT」の代表HOUKOさん。滋賀の大学で住居のデザインを学び、3年生の時の授業の課題で「リサイクルしたものを使って実際に中に入ることができる空間をつくる」というものでした。「何があるだろう?」と考えたとき、『傘の布』をつなげた空間を思いついたそうです。「大学内や家に壊れた傘が置いてあったことが、きっかけだったのでは」と当時を振り返ります。卒論授業の課題としては傘の布での空間制作は実現しませんでしたが、夏休みの個人制作として傘の生地を使った作品づくりを始めました。その時から、捨てられたり、壊れた傘を「素材」としていかに活用しリメイクするかということに取り組み、2007年には「CASA PROJECT」を始動させたのです。休日を使ってワークショップを開催したり、傘の素材を使ったバッグやヘアアクセサリーを作るなどHOUKOさんが中心となって活動を進めていきました。
「CASA PROJECT」では、傘という素材を生かしたものづくりを展開し、実際に作ることのできるワークショップを行っています。目的は、身近にあるものを工夫し、自分で作ることを楽しむこと。クリエイティブかつサステナブルな未来を目指すHOUKOさんの、「一人ひとりが必要以上にモノを買うことをやめ、生活に必要なものを自分でつくるようになってほしい」という想いがこめられています。
多くの仲間とともに、全国の不用傘を減らしていく
「この活動は私一人でやっても、不用傘が減る本数は限られています。でも、全国各地にいる人たちと一緒に活動をしていくことで、捨てられる傘を少しでも減らすことができるのでは」と考えたHOUKOさんは、共に活動する仲間として『CASA-member』を募ることにしたのです。
今ではコンセプトに共感してくれる全国約140名のメンバーが一緒になり、少しずつ活動の輪を広げています。不用傘の素材を使ってモノづくりの楽しさを体験してもらうことはもちろんですが、こんなに傘が捨てられているということを知ってもらうことも一つの目的です。
傘も街も、自分でつくりながら再生できることを気仙沼から発信したい
「CASA PROJECT」発足後、各地でワークショップや展示会を開催するといった活動を進めてきました。仙台市で作品展覧会を行ったときのことです。展示を見た方が「気仙沼でワークショップをしてほしい」という依頼がありました。そこで、2011年冬、気仙沼市南町の紫市場の仮設商店街がオープンする際にワークショップを開催しました。このイベントが一つのきっかけとなり、HOUKOさんは2015年春に気仙沼に移り住むことになりました。
この活動はどこでもできるのが特徴です。実際、CASA-memberが全国各地で自主的に活動を行っています。ただ、傘が大量に捨てられるのはやはり首都圏という実状があります。そんな中で首都圏を離れ気仙沼に移住することになったHOUKOさんは、「気仙沼でやる意味はなんだろう?」とプロジェクトスタートから10年の節目でもあるこの年に、改めて考えたと言います。
「気仙沼は、震災で大きな被害を受けた地域のひとつです。今、気仙沼は新しい街づくりに向けて進んでいます。壊れた時にどうアクションするか、新しく生まれ変わることの大切さは、壊れた傘を素材として活用し生まれ変わらせるCASA PROJECTに通じるのでは」----そう気づいたHOUKOさんは、この気仙沼の地から、消費に頼らないで「自分でつくる」「つくりながら暮らす」ことを実践し、発信していくことの意義を改めて感じたと言います。
傘からCASAへ
HOUKOさんの自宅でもあるCASA PROJECTの活動拠点には、傘の素材が溢れています。不用傘をリメイクして商品になるまでの流れを簡単にご紹介します。
まず、壊れている傘が届くと骨と布を外し分解します。その布を洗濯し、干してアイロンがけを行い、同じ大きさにカットします。そこから出来上がりの形をイメージして、どの布を組み合わせるかを考えていきます。HOUKOさんがこだわっているのは、傘の軽くて丈夫といった生地の特徴を生かした商品をつくること。テントやバッグ、ペンケース、コースター、自転車カバーなど10種類ほどの商品に生まれ変わっていきます。
「傘によってデザインが異なるので全く同じものは作れないんです。ワークショップの依頼があれば傘集めからお願いをします。素材となる傘の布があるのが当然ではなくて、傘を自分で集めてみることで、こんなに傘が捨てられているんだというところから感じてもらえれば、と思っています」
傘は個人の方から送られたり、お店が閉店する際に古い傘を提供してもらえたりすることもあるそう。昔の傘の柄は今ではめずらしく、レトロな柄のものは「ここぞ」という時に使うのだとか。
HOUKOさんはもともと色の配色や組み合わせが好きで、「環境とかエコというと、茶色とか白とか色味がないイメージですが、この活動はとてもカラフルで楽しみながらモノづくりができますよ」と楽しそうに話してくれました。
リメイクしたものでありながら、日常に溶け込んで使われているのがおもしろい、と言うHOUKOさんの部屋にはカラフルな傘の布がたくさん置かれています。「いつか、"気仙沼ならでは"の商品もつくってみたいですね。たとえば漁師さんのエプロンとか!」。傘の布をつなげていくように、HOUKOさんの夢もどんどん広がっていきます。
CASA PROJECTの目指す未来
CASA PROJECTで作られた商品の一部はオンラインショップで販売していますが、商業的な展開は考えていません。「捨てられた傘を使って商品を作ってビジネスを始めると、素材を集めるために『もっと傘を捨ててください』ということになり、コンセプトに合わなくなってくるんです。私の想いはこの活動をしなくてもいい未来がやってくること。捨てられる傘がなくなることはないかもしれないけれど、捨てるものをリメイクして使い続けることが普通になってくれることが願いです」
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