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東日本大震災の経験を共有し、自然とともに生きることを語り合う場

2023.03.27

南三陸町東日本大震災伝承館 南三陸311メモリアル

宮城県南三陸町の震災伝承施設「南三陸311メモリアル」は、東日本大震災の経験を共有し、語り合う場として2022年10月に誕生しました。まちの人の証言を中心に展示やプログラムが構成され、「あなただったらどうする?」と問いかけることで、災害を「自分ごと」として考えてもらう場としています。(写真提供:南三陸町)

巨大津波の規模を知るエントランス

津波でほぼ壊滅され、10.8メートル嵩上げされた土地に立つ南三陸311メモリアル。住宅地はさらに高台に移転し、町の中心部だったこのエリアにはもう人が住むことはありません。でも、これからも海と山とともに生きていくという町の人たちの思いを建築家・隈研吾氏が受け止め、南三陸311メモリアル、さんさん商店街、そして復興祈念公園へ続く中橋をトータルでデザインしました。地元の杉材をふんだんに使った南三陸311メモリアルの建物は、「海と山、過去と未来をつなぐ船」をイメージ。1階を南北に貫く通路を、海風が山に向けて吹き抜けていきます。

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エントランスのフリーゾーン(無料エリア)でのバナー展示。
南三陸町の人的被害、建物被害をはじめ、住民の避難状況や
ライフラインの復旧に要した月数など、小さな町の大きな被害に息をのみます

エントランスでは、南三陸町の津波被害を表す木製立体地図が来館者を迎えます。リアス海岸特有の入り組んだ海岸線に押し寄せた津波の高さと、河川に沿って内陸奥深くにまで及んだ浸水地域。南三陸町が教訓としてきた1960年のチリ地震津波とは、比較にならないほどの規模だったことを伝えています。
壁を見上げると、天井近くには「旧防災対策庁舎を襲った津波の高さ 15.5m」のラインが。再び同規模の津波が襲って来れば、この建物も水中に沈むことを実感させられます。

南三陸311メモリアルは、決して大きな建物ではありませんが、展示ギャラリー、アートゾーン、ラーニングシアターの3つのゾーンでは、訪れた人が災害を自分ごととして感じるためのアプローチが随所に工夫されています。

南三陸311メモリアル 3つの学びゾーン

展示ギャラリー...住民や防災対策庁舎で九死に一生を得た人々の証言映像や、町内各地での復興エピソードをまとめたバナーを展示
ラーニングシアター...住民たちの体験をもとにした映像を見ながら、命を守るための行動について考えることができる
アートゾーン...大災害で失われる命の重さに触れ、「自然とは、人間とは、生きるとは」に静かに思いをはせる空間

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エントランスに掲げられた津波被害を表す木製立体地図。
津波の高さと、河川に沿って内陸奥深くにまで及んだ浸水地域がひと眼でわかります。
ちなみにこの地図は、地元の杉材を重ねて作られています

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南三陸311メモリアルでチーフを務める吉岡一浩さん。
「館内で学んでもらってから、映像に登場する場所に
足を運んでもらい、津波の高さを実感してもらえる
ツアーを企画していきたい」と語ってくださいました

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エントランスの天井近くに「旧防災対策庁舎を襲った津波の高さ 15.5m」とマークされていて、
来館者誰もがその高さにがく然とします

 

「次世代のために」
証言映像で伝えるギャラリー 

スピーカーから流れる証言者の声に誘われるように展示ギャラリーへ。何もかもが瓦礫と化し、海へ流されてしまった南三陸町では、他の伝承館で見られるような展示品がありません。では、何で伝えるのか...。南三陸311メモリアルでは震災被害の伝承を、人の証言に託しました。あの日、町のどこにいて、何を見て、どうやって生き抜いたのか。津波を経験した町民89人から全体で延べ約80時間の話を聞き、映像に収めたのです。

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防災庁舎で生き残った人の証言映像。
次の世代や他地域の人に自然災害の恐ろしさと、命を守るためのそなえを伝えたいという使命感から語ってくれる様子が胸を打ちます

展示ギャラリーでは、こうした証言映像に触れることができます。町の防災対策庁舎で奇跡的に助かった人たちの証言は、ここだけで公開されているもの。震災から10年の時を経て、ようやく語りはじめた人々の姿に胸を打たれます。話すことは恐怖と悲しみを思い出すこと。次の世代や他の地域の人が、自然災害から命を守るために自分の経験が役立つなら...。そうした使命感からの証言です。

また展示ギャラリーでは、「南三陸メモリアルアーカイブス」として、震災から町がどうやって復興へとの歩み出したのか、幾つものエピソードをバナーにまとめて紹介しています。8テーマ、全85本制作されたバナーが順番に展示されていく予定で、町の人たちの団結や奮闘、国内外からの様々な支援など、この地で起きた物語を知ることができます。「新たなまちへ」というテーマでは、小学生たちが歌を作り大人たちを勇気づけたこと、さんさん商店街の歩み、南三陸病院の再生の模様などを展示しています。

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「南三陸メモリアルアーカイブス」の展示は、8テーマ全85本のストックがあり、定期的に展示替えが行われます

「その時、あなただったらどうする?」と
問いかけてくるラーニングシアター

南三陸311メモリアルのメインコンテンツである「ラーニングシアター」では、壁三面のスクリーンで、自然の脅威に直面した人たちの様子が、証言を中心とした映像で伝えられます。映像の途中で、「もしあなただったらどう行動しますか。周りの人たちと話してみてください」と観客は問いかけられます。

椅子の向きが整列していないのは、映像が再開されるまでの間、家族や友人と話し合うため。例えば、「津波が迫る中、あなたは屋上に逃げますか? それとも、高台に逃げますか」。答えは一つではなく、何が正解とも断定できません。自然災害はどんな風に起こるかわからないから。受け身で映像を見るだけでなく、自分自身のこととして学び合う場を提供しています。14_メモリアル内観 ラーニングシアター.jpg

「ラーニングシアター」では壁三面のスクリーンで、証言を中心とした映像を視聴。
椅子の向きが整列していないのは、映像の途中で周りの人たちと語り合うため
(写真提供:南三陸町)

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他人の考えも気づきや学びのきっかけに
(写真提供:南三陸町)

 

チーフの吉岡一浩さんは、「常に問い続ける、考え続けることが伝承につながるのだと思います」と言います。「どんなに大きな災害も、時間が経てば忘れられてしまい、備えも十分ではなくなります。次の世代に伝承するためには、常に考え続けることが大切なのではないでしょうか」

シアタープログラムの終了後には、吉岡さんたちが、一言メッセージを伝えるそうです。「あの津波で、明日を普通に生きるはずだった多くの命が失われました。その犠牲を無駄にしないために、皆さんに自分ごととして考えてほしいのです」。
シアターでは、「防災ミニブック」を渡されます。震災の被害状況やエピソード、防災の知識が掲載され、自分で考えたことをメモする欄もあり、自宅に帰った後も振り返ることができる小冊子です。南三陸311メモリアルを訪れるのは、教育旅行の学生たちだけでなく、有事の際に活動する県内外の地域の消防団、町内会の団体も多いそうです。311メモリアル (5).jpg

シアターで手渡される防災ミニブック。
自然災害から命を守る行動についての情報も

「生きるとは」に思いをはせるアートゾーン

アートゾーンでは、フランスの著名な現代アーティスト クリスチャン・ボルタンスキーのインスタレーションに触れることができます。一昨年病没したボルタンスキーは、ユダヤ人の父をもち、ナチスドイツの占領から解放された直後のパリで生まれ、大人たちから強制収容所の恐ろしい記憶を聞いて育ちました。ホロコーストはじめ、失われた無名の人の命に思いをはせる作品を多く発表しましたが、震災後の南三陸町を訪れていたそうです。天井から下がる電球と積み上げられたたくさんの錆びたブリキ缶は、失われた命のモチーフとして、鑑賞者に生と死を意識させます。

何を感じるかは受け取る人の自由です。日本人と欧米人ではアートに対する考え方は違いますが、50100年たっても忘れないようにするためには、アートの普遍性は有効です」と吉岡さん。
缶を作ったのは町内の板金屋さん。錆び方もボルタンスキーが生前に確認したそうです。
アートの力で命を考えてもらう。他の伝承施設にはないアプローチです。

「エントランスで震災の状況を知り、展示ギャラリーに入って生の証言に触れ、ラーニングシアターに入る前に、アートゾーンで気持ちを静かに整えてもらうのがいいかもしれません」と吉岡さん。

パンフレットにはこんなメッセージがあります。

南三陸311メモリアルは
わたしたち南三陸の住民の声に耳を傾けていただき
自然災害の記憶から自らと向き合い、語らい、学び合う
みんなの広場です

海辺の小さな町は
自然とともに生きることを考える場所
ここから、あなたの心の旅を始めてください

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床にはこんな言葉も。来館者に問いかけ、考えさせる工夫が随所に施されています

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館内と外構には東京藝術大学のプロジェクトによる絵画作品などが設置されています。隈研吾建築都市設計事務所から依頼を受けた伊東順二東京藝術大学COI拠点特任教授が、若いアーティストたちと被災地に思いを寄せて作品を制作しました

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2階展望デッキからは、復興祈念公園、中橋、志津川湾等を望むことができ、町の復興状況を確認できます

 

南三陸311メモリアルは、東日本大震災の経験を共有し、"自然とは、生きるとは"に思いを馳せ、語り合う場。
「語ることこそが伝承」と信じ、体験を共有してくれる町の人の思いに触れてみてください。

 

南三陸311メモリアル

住所:
〒986-0752 宮城県本吉郡南三陸町志津川字五日町200番地1
開館時間:午前9時〜午後5時
休館日:毎週火曜日・年末年始(12月29日から翌年1月3日まで)
入館料:一般・大学生1,000円、高校生800円、小中生500円

*2023年6月から一部料金が改正されます。

HP
https://m311m.jp/

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