仙台東部沿岸地区に
こだわりの「温泉」と「食」で再び笑顔を
2022.10.27

アクアイグニス仙台
地下1,000mの大深度から湧き出す湯をゆっくりと楽しめる温泉施設、著名なシェフ、パティシエが監修するレストランやパティスリー、新鮮な食材が並ぶマルシェ、東北初出店のカフェ。海に程近い仙台市若林区・藤塚の広い空の下、こだわりの食を提供するモダンな佇まいの温泉施設「アクアイグニス仙台」が2022年4月にオープンしました。仙台東部沿岸地区の新たな拠点として注目を集める「アクアイグニス仙台」の魅力を、運営会社代表取締役の深松努さんに伺いました。
1年中、豊かな温泉と食を楽しめるスポット
仙台市若林区藤塚。震災時、津波で甚大な被害を受けたエリアです。かつて豊かな水田が広がり、人々の笑顔で溢れていたこの地区は、震災後、危険区域と指定され、人が住むことができなくなりました。そんな地に、2022年4月にオープンしたのが、温泉と各種の食空間を贅沢に備えたアクアイグニス仙台です。「治する・食する・育む」というコンセプトの通り、訪れた人が、広々とした温泉施設で体と心を癒し、確かな腕で生み出されるこだわりの食を堪能し、さらに新鮮な食材が並ぶマルシェで買い物をすることで地域の食文化を育むことができるようになっています。
「実は仙台には、大人がゆっくり楽しめる観光施設が多くないんです。アクアイグニスは、施設内のどこで過ごしていただいてもリラックスしていただけるよう、空間づくりにこだわりました。静かに、ゆったり過ごしていただけるのではないかと思います」
そう語るのは、アクアイグニス仙台を運営する株式会社rebornの代表取締役、深松努さん。温泉、食はもちろん、建築、インテリアにもこだわった空間は、開発が進む仙台東部沿岸エリアの新たな拠点として、高い注目を集めています。
アクアイグニス仙台を運営する株式会社rebornの代表取締役、深松努さん。
「アクアイグニスが位置する藤塚は目の前が海。太平洋から昇る朝日と、
蔵王連峰の山並みに沈む夕日がとてもきれいです。
温泉と食だけでなく、そういった楽しみ方もしていただきたい」と話します
地下1,000mの大深度から湧出する湯が楽しめる「藤塚の湯」。
海に面した露天風呂、広々とした内風呂、ドライサウナ、予約制の貸切風呂を備えています。
貸切風呂は車椅子のまま入ることができるよう、手すりや脱衣所の洗面台の
配置などが工夫されています。写真は露天風呂です
入り口に、500冊の蔵書を備えたライブラリーカフェを併設。
食やインテリア関連の写真集も多く、入浴後、ゆったりとリラックスしながら
読書やアートを楽しめるようになっています
温泉棟には、人気料理人、笠原将弘氏による和食店「笠庵」も。
三陸の海の幸、里の幸を使用した、遊び心溢れる和食が楽しめます
芝生が広がる中庭を囲むように配置された食空間。
写真正面は温泉棟、左側に位置するのは地域の食材が並ぶマルシェと東北初出店の猿田彦珈琲。
店舗の前に設置された藤棚は、春から初夏にかけて美しい紫色で染まります。
週末は家族連れでにぎわい、子どもが芝生を駆け回る姿も見られます
イタリアンの第一人者と言われる日髙良実シェフによるレストラン「グリーチネ」。
確かな味を求める人が集うのはもちろんのこと、空間に魅了され、ウェディングで利用したいという声もあがっているそう。
実際に、近隣に住むカップルから申し込みがあったそうで、「地域の人に喜んで使ってもらえるのが嬉しい」と深松さん
日本を代表するパティシエの一人、辻口博啓氏によるパティスリー「コンフィチュール アッシュ」。
色鮮やかなケーキが並んでいます
辻口氏による「ル ショコラ ドゥ アッシュ」。
豊富なテイストのショコラが揃っています
入り口の看板もすてきです。
オススメのショコラがチョークアートで紹介されています
ベーカリーも辻口氏が監修。
素材はもちろん、店内の飾り付けも季節感を大切にしています
東北初出店のカフェ「猿田彦珈琲」。
原料にこだわったこだわりのコーヒーを広い店内でゆっくりと楽しめます
マルシェの店内。
地元の新鮮な野菜や果物、スナック、飲み物などが並びます
マルシェでは、アクアイグニス仙台オリジナルの日本酒「藤の雫」も販売。
近隣で収穫された「ひとめぼれ」を原料にしています
デザイン性の高いおみやげが購入できるギフトショップ。
辻口氏が手がけるスイーツをはじめ、地元原料を使用した調味料やクラフトグッズなどが並びます
何もなくなった地区に人々の笑い声を取り戻したかった
実は深松さん、仙台市で長年建設業を営んでいます。深松さん率いる深松組は、震災当日、ちょうど若林区の藤塚地区で堤防の工事をしていたそうです。
「立っていられないほどの激しい揺れに突然襲われ、全員急いで車に乗り込んでその場を離れました。途中、ラジオから6mの津波が来るというニュースが流れ、すぐに10mと訂正された。道には、当時このあたりに住んでいた高齢の方々が出てきていて様子を伺っていたので、とにかく逃げなきゃだめだ!と必死に伝えました」
と深松さん。しかし、前回この地が大地震に襲われたのは400年前。ほとんどの住人にとって津波は実感がないものだったそうです。そのため、多くの人が逃げ遅れてしまったと深松さんは言います。
後日、仙台市全体の瓦礫撤去の責任者となった深松さんが担当したのが、現在アクアイグニス仙台にほど近い荒浜地区でした。想像を絶する光景に「地獄を見た」と深松さん。何もなくなった沿岸部で、日々瓦礫を撤去しながら「この地区をなんとかしたい、なんとかしなければ」と思ったそうです。
藤塚地区の震災当時の被災状況(仙台建設業協会提供写真)
「感謝報恩」。深松さんが大事にしている言葉です。震災時は、人々が助けの手を差し伸べてくれて本当に助かった、心から感謝していると語ります。
「震災発生から数日後、関西にいる建設業仲間の友人から連絡があって、物資を持って行くと。危ないから来なくてもいいと言ったのに、大量の食料と燃料を持ってきてくれました。そのおかげで私たちは人命救助ができました。本当にありがたかった。彼はその後、女川で2,000名の炊き出しもしてくれました。それが女川の人々にとっては震災後初めて食べた温かいご飯になりました。本当に感謝です」
震災当時の様子を語る深松さん。
国内だけでなく、海外からも多くの助けがあり、例えば台湾は被災3県に多額の義援金をおくってくれたそうです。
その後、台湾で地震がある度に、深松さんは仲間内で義援金を集め、現地に足を運んでいるそう。
「感謝報恩」が大切だと話します
アクアイグニスとの出会い 藤塚にもこのすばらしい施設を
震災時、関西から物資を運び、炊き出しもしてくれた深松さんの友人は、その後、三重県で温泉施設をオープンしました。この施設はオープン後瞬く間に人気となり、地方創生に取り組む全国の自治体から問い合わせが相次ぎました。実はそれがアクアイグニス。現地に何度か足を運んだ深松さんは「この施設を仙台でもやりたい」と思うようになったそうです。
深松さんが瓦礫撤去を担当した藤塚地区は、その後危険区域の指定を受けて人が住めなくなっていました。しかし数年後、仙台市が土地の利活用プランの募集を開始。アクアイグニスを仙台でもやりたいと思っていた深松さんは早速手を挙げ、その後、無事に建設がスタートしました。
建設が進むアクアイグニス仙台。
写真は21年12月に撮影されたもの
アクアイグニス仙台は、地中熱を回収し、温泉や床暖房の加温に利活用しています。
浴室排気熱や排水熱まで利用するこの試みは東北初だそう。
こうしたSDGsへの試みは、地域の教育機関からも注目されています。
写真は地中熱を回収するためのスリンキー式コイル
オープン後、深松さんは、かつて藤塚地区に住んでいた方々を施設に招いたそうです。
「一通り施設の説明をした後に感想を聞いたら、この地区にこんなすばらしいものを作ってくれてありがとう、と言ってくれた。それを聞いた時は、心から嬉しかったです。同時に、これから頑張って、このエリアを盛り上げなければと力が入りました」
アクアイグニス仙台の屋上から海側を見渡した景色。
かつてここには豊かな水田が広がっていました
困難だったことは?との問いに「一番大変だったのは運営」と答える深松さん。
「もともと建設業ですから作ることはプロですが、施設の運営は初めて。最初のうちは日々大変でした(笑)。
でも、いろいろあったからこそ、毎回勉強させていただいて、その経験が現在生きています。
力を合わせて乗り越えてきたスタッフの皆さんには感謝していますし、お客様のコメントも本当にありがたいです」
点ではなく、面で東部沿岸エリアを盛り上げたい
アクアイグニス仙台のオープンもあり、賑わいを見せている仙台東部沿岸地区。アクアイグニスに隣接する土地は大きな公園になる計画が進んでおり、ファミリー層がさらに楽しめるエリアになると深松さんは言います。
「エリア全体の観光という視点で見ると、まだまだ点のまま。それぞれの観光スポットがつながり、ここを訪れた人がエリア全体を楽しめるような工夫が必要です。例えば、名取川を挟んだ川辺にある人気のモール『かわまちてらす閖上』と、将来的には、渡し船で結ぶ計画もしています。東部沿岸地区を訪れた人々が個々のスポットだけでなく、自由に行き来し、エリアを楽しんでいただけるような工夫をしていきたいと思います」
未来に向かって、様々な取り組みが進行する仙台東部沿岸地区。アクアイグニス仙台とともに、深松さんの挑戦は続きます。

アクアイグニス仙台
〒984-0843
宮城県仙台市若林区藤塚字松の西33-3
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