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菌にエサをあげてエネルギーをつくり出す町

2015.12.22

アミタ株式会社 南三陸事務所
震災の翌年、アミタはそれまでボランティアで通っていた南三陸町に、新たな事務所を構えました。それから4年の歳月をかけて、地域住民の方々と信頼関係を築き、現在は廃棄物の100%資源化をはじめとした循環型のまちづくりを目指したさまざまな取り組みを進めています。そのうちの一つが、2015年秋から稼働しているバイオガス施設「南三陸BIO(ビオ)」。家庭から出る生ごみを、地元で使うエネルギーと資源にして循環させる取り組みです。

食べ物がゴミになる瞬間

たとえばここにキャベツがあったとします。あなたは芯を取り除き、三角コーナーに放るかもしれません。残りはきれいに包丁で切って、食卓へ。でも、食卓に並んだキャベツも、捨てられてしまった芯の部分も、もとは同じだったはず。「生ごみ」とは、人が食べない部分を勝手にそう呼んでいるに過ぎません。

「メタン菌にとっては、人が捨てる部分が食べ物」

そう話すのは、南三陸町でバイオガス施設「南三陸BIO(ビオ)」を運営しているアミタ株式会社の櫛田豊久さん。「BIO」は、家庭から排出された生ごみをメタン発酵させ、電気・熱エネルギー化する施設。副産物として生成される液肥は、地元の農地に還元しています。

「BIO」を訪れると、櫛田さんが施設の仕組みを体にたとえて説明してくれました。

「この施設は、人間のからだの消化システムと同じような構造になっていると考えてください。まず、家庭から集めた生ごみは、メタン菌のエサになります。エサ(生ごみ)を消化し、おならとなるのがバイオガスで、排泄物にあたるのが液肥ですね。BIOは無機質な工場ではなくって、メタン菌という生き物を飼っている場所なんですよ」

※バイオガス施設「南三陸BIO(ビオ)」。名前はBest Integrated Operation(ベスト インテグレーテッド オペレーション:最適に統合された運用)と、BIO(バイオ:生命・生物)の2つの意味から。

バイオガス施設「南三陸BIO(ビオ)

燃えるごみの約4割が資源になる

なぜ、「南三陸BIO」が稼働することになったのか。そこには町が抱える問題が関係していました。震災により、現在南三陸町にはごみ焼却施設がなく、特例で隣の気仙沼市に焼却を委託しています。町を復興させるにあたり、ごみの減量やリサイクルは避けて通れない課題でした。

「町内で出たごみは町内で処理することが原則とされています。町内にごみの焼却施設や埋立処分場を持つこともひとつの選択ですが、誰だって自分の家の近所にごみ焼却場ができたら嫌ですよね。そこを無理に説得するのではなく、そもそもごみが出ない状態をつくる選択肢もありますよ、と提案したんです。今回のバイオガス事業がきちんと回れば、燃えるごみのおよそ4割を資源に変えることができるんです。」

この提案が町に採用され、アミタは南三陸町のパートナー企業になりました。目指すのは、南三陸町をできるだけ自立循環型のまちにすること。バイオガス事業は、あくまでその取り組みの一環です。

「今は生ごみを対象に取り組んでいますが、これがゴールではありません。地域循環型のまちづくりを進めて100%資源循環を実現し、将来地元の子供たちにとって『ごみは焼却したり埋め立てしたりしないで資源化するもの』という考え方が当たり前になったら理想的ですね」

南三陸BIO 所長 櫛田豊久さん

「自分にできることは何か」を真剣に考えるから団結できる

地域循環型のエネルギー構想は「失敗事業」と呼ばれるそうで、理由は一般的にそれぞれの担当企業が分かれているため、うまく連携が取れなくなるから。たとえば、全体像を描くコンサルティング担当のA社、施設を建設するB社、施設を運営するC社、ごみの分別・収集を担当するD社、液肥散布を担当するE社など。これを、入り口から出口までトータルでマネジメントできれば、実現の可能性は高くなるといえます。バイオガス事業をトータルでマネジメントする役割を担うのがアミタです。

「南三陸町だからうまくいっているということもあると思います。震災があって、昨日まで顔を合わせていた人が突然いなくなるような、命のはかなさをみんな感じたんですね。他人と協力しなければ何もできない状況の中だからこそ、生かされ、そして今この地で生きている人たちは『自分にできることは何か』を真剣に考えていて、本当に誰かのため、町のためになることに対して共感されやすいというところがあります。」

コンパクトな仕組みに海外も注目

アミタの取り組みは、「地域住民がつくるエコシステム」として海外でも注目されています。2015年秋には、パラオ共和国で最大の人口を抱えるコロール州の知事が「南三陸BIO」を視察しました。パラオ共和国は、観光を主要産業にしている人口2万人ほどの小さな島国ですが、美しい景観の裏では廃棄物の処理が行き詰まり、衛生状態が悪化するなど、大きな環境問題を抱えています。そうした状況を打開するのに、南三陸町のバイオガス事業はとても参考になるそうです。

「南三陸BIO」の循環モデルは施設もコンパクトで、事業規模も小さく、大企業が利益をうんと生み出すにはもの足らない。しかし、故障したら自分たちでどうすることも出来ないような巨大なブラックボックスのような施設ではなく、いざとなったら地元の人たちで何とか対応してまわし続けていけるようなモデルだからこそ、パラオのような国々にも現実味をもって歓迎されるのでしょう」

「今後は『南三陸BIO』の循環モデルをパッケージ化し、さまざまな都市に展開していきたい」と櫛田さん。今回この施設が稼働したことで、小規模なバイオガス施設を建設・運営するのに必要な土地面積や費用を具体的に算出することができました。これまでは完全オーダーメイドであるがゆえに高額になりがちだったバイオガス施設を、「人口2万人規模であればこれ」というようにパッケージ化して価格もわかりやすく打ち出す。そうすることで、大都市以外の自治体も検討しやすくなります。

最後に、このプロジェクトに携わる醍醐味を櫛田さんに聞いてみました。

「自社の事業が大きくなればなるほど、地域や社会がよくなっていく。自分たちはそういう仕事をしているんだ、と思うと気持ちがいいんです。ただのきれいごとで終わらないよう、きちんと利益も出して事業が続くということもしっかりとやっていきますよ」

南三陸町に来てもうすぐ5年目。じっくり根を張った取り組みが、徐々に花咲き始めています。

生ごみの処理をしているとは思えないほどクリーンな施設内。臭いもほとんどしない。

メタン発酵によって生まれたガスは、コンテナのなかに保管されている。

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