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まだやるべきことがある 福島県浪江町の大堀相馬焼を焼き続ける親子

2019.08.13

大堀相馬焼 陶吉郎窯

江戸時代から約300年以上続く、福島県浪江町の伝統工芸「大堀相馬焼」の窯元のひとつです。陶吉郎窯は、江戸時代に相馬藩に焼き物師として召し抱えられていた先祖の近藤陶吉郎の名前をとってつけられています。 2018年4月に、避難先の福島県いわき市に工房とギャラリーをオープン。近藤学さん、賢(たかし)さん親子が、伝統的な大堀相馬焼とオリジナルの作品づくりを行っています。 作品が展示された工房で。父親の近藤学さん(左)、息子の賢さん(右)

浪江町の特産品 大堀相馬焼

福島県双葉郡浪江町には、大堀相馬焼という国の伝統的工芸品に指定された焼き物があります。相馬焼のシンボルである「馬の絵」と、「青ひび」の地模様が特徴で、二重構造になっている器は、熱い飲み物を入れても持つことができる、この地域に住む人たちの生活に溶け込んだ焼き物でした。

現在、福島県いわき市の工房で作品づくりを続けている、近藤学さん、賢さん親子は、伝統を引き継ぎつつ、オリジナルの作品を精力的に制作しています。

大堀相馬焼の歴史は長く、江戸時代から約330年と言われています。東日本大震災前、浪江町大堀には20数軒の窯元があったそうですが、現在再開しているのは県内で11軒、県外で1軒。そのうちの1軒が、「陶吉郎窯」です。

震災後、いち早く再開した陶吉郎窯

東日本大震災と原発事故の影響で、大堀相馬焼の産地である大堀地区は「帰還困難区域」となり、震災から8年以上が経つ今も、許可のない立ち入りはできません。近藤さん親子は震災直後、知人のつてでいわき市に避難し、2011年6月にいち早く陶芸の制作を始めました。

「当時は、こんなに長く大堀に帰れないとは思っていなかった。だからいつでも帰れるように、県内にとどまり、最低限の設備でとにかく作品づくりを始めた」と話すのは、父親の学さん。その原動力は、生業としての陶芸制作と併せて、自身の作品づくりへの思いが大きかったそうです。震災前から、伝統的な大堀相馬焼と、自身のオリジナル作品をつくっていた学さん。特産品として手法が決まっている大堀相馬焼と違って、オリジナルの焼き物ではまだまだやりたいことがあり、言ってしまえば道半ば。やめるわけにはいかないという思いで、どうすれば焼き物を続けられるのかと場所を探し、避難先のいわき市で制作を再開しました。contents_image2.jpg

学さんのオリジナル作品。「象嵌(ぞうがん)」という技法を使ってつくられたもの

その学さんとともに、やはりオリジナルの焼き物を作っているのが、息子の賢さんです。小さい頃から大堀相馬焼が自分のまわりにあることが自然で、父親の作品づくりを間近で見てきた賢さんが、陶芸を生業にしたいと考えたのは、ごく自然な流れだったようです。「作業も工程も元々好きでした。身近で父の仕事を見ていて、大変なことはわかっていましたが、それよりもやりたいという気持ちの方が大きかった」という賢さん。芸術系の大学、大学院を卒業後、大堀相馬焼にルーツがあるといわれる、栃木県の益子焼の施設で修業を積んだのち、大堀に戻りました。その約半年後に、東日本大震災が起きました。contents_image3.JPG

工房で作品づくりをする賢さん

「伝統を継ぐ」こと

多くの浪江町民の皆さんと同じく、近藤家も2~3日で戻れると思って避難をしましたが、2012年4月に浪江町はほぼ全域が警戒区域に指定され、2017年3月に一部地域が避難解除されても、大堀地区は帰還困難区域に指定されたままです。父親の学さんは、「産地である大堀を離れた時点で、伝統は一度途切れたと思っている」といいます。「大堀相馬焼」は、大堀地区で300年以上作り続けられてきたことで「大堀」相馬焼と呼ぶことができる。製法や形が同じでも、大堀以外で作ったものは大堀相馬焼ではない、と。実際に、現在再開している12の窯元は、県内外各地の、大堀以外の場所でそれぞれに製造しているのが現状です。確かに「産地形成」という意味では、伝統は途切れてしまったといえるのかもしれません。contents_image4.jpg

現在の大堀の様子。この西に、陶吉郎窯があるそうです(2019年7月撮影)※この場所までは立ち入りが可能です

息子の賢さんは、現在は特産品である大堀相馬焼ではなく、オリジナルの作品を制作しています。しかし、「形は違っても、伝統を継いでいると思っている」という賢さん。賢さんは、大堀相馬焼の窯元の中では最年少。現段階では伝統を受け継いだ最後の一人とも言えます。ただ「大変だとは思っていない。自分が楽しんでつくったものを、喜んで使ってもらえることがやりがい」と、気負うことなく作品づくりを続けています。contents_image5.jpg

賢さんと、オリジナル作品「innocent blue」

学さんと賢さんの作品は、昨年2018年に、いわき市四倉町に構えた工房と窯で制作されています。中でも「登り窯」と呼ばれる窯は、レンガ造りで人が一人立って入れるほどの広さの窯が4室連なっている構造。通常は、ガスや電気の窯で焼きますが、登り窯は薪で作品を焼くので、その登り窯の焼き具合に合わせた作品を制作するとのこと。窯に火入れをしてからは、約1週間、絶やすことなく薪を入れ続けるそうです。contents_image6.jpg

作品づくりに時間がかかるため、現在は年に1回だけ火入れをしているそうです

大堀相馬焼をつくり続ける

今では、100円均一や通販などで、様々な器が自由に買えるようになっていますが、一昔前までは、日常的に器を買おうとする時には地元のものを購入するのが自然なことでした。浪江町をはじめとする福島県相双地域(そうそうちいき・相馬、双葉郡の総称)の家庭には、当たり前のように大堀相馬焼があったのです。湯飲みやお皿はもちろん、灰皿や神棚の花瓶までが大堀相馬焼であることも珍しくありませんでした。しかしそれらは、地震で壊れてしまったり、放射能を浴びて持ち出せなくなってしまったりしています。そんな地元の人が今、大堀相馬焼を買いなおしたり、またこの震災で大堀相馬焼を知った人が気に入って購入したりと、今また大堀相馬焼の価値が見直されているのでは、と学さん。contents_image7.jpg

工房で制作された、大堀相馬焼の作品の一部

陶吉郎窯で制作する大堀相馬焼は、特産品としての製法にとらわれず、 伝統を受け継いだ、新しい形を目指しているそうです。「大堀を離れてしまっても、つくり続けることで伝統を遺すこと」。 それが、陶吉郎窯の使命なのでしょう。

2018年にオープンした新工房は、海の近くで、田園の緑に囲まれた広々とした土地にあり、かつては別荘やギャラリーとして使用されていた洋館を改修しました。ギャラリーと、新しくつくられた窯と工房は、誰でも見学が可能で、気に入った作品はその場で購入することもできます。作品展示のほかにイベントなども開催していますので、いわきを訪れた際には、近藤さん親子の作品と思いに触れてみてはいかがでしょうか。

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大堀相馬焼陶吉郎窯

大堀相馬焼 陶吉郎窯

住所:〒979-0204 福島県いわき市四倉町細谷字水俣75-17
TEL/FAX:0246-38-7855
営業時間:10:00~18:00、定休日:毎週火曜日

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