ドコモグループ 東北復興・新生支援

笑顔の架け橋 Rainbowプロジェクト

  • HOMEHOME
  • 酒蔵社長の福島の未来へ向けた冷静で熱い想い

酒蔵社長の福島の未来へ向けた冷静で熱い想い

2015.04.06

有限会社 渡辺酒造本店
有限会社渡辺酒造本店は明治4年、地元向けの御神酒酒屋として創業。社長の渡辺康広さんは福島県酒造協同組合の理事及び酒米対策委員会委員長を務めていて、県内の酒蔵65社の酒米対策責任者です。

講演会を続けた東日本大震災後

「講演した農家さんは、およそ2000人を超えます。」
酒蔵を営む渡辺さんは、福島県酒造協同組合の酒米対策委員長を震災前から担当。大学でも農学部農芸化学科土壌学教室で学び、放射線化学も勉強されたその道のプロです。
「東日本大震災での原発事故で、原発についての専門家はたくさんいましたが、原発の構造から米の一粒までトータルにしゃべれる人間は私一人だけだったと思います。」と渡辺さん。
原発事故によってこれから何が起こり、それではどうすればよいかをいち早く考え、察知し、渡辺さんは行動に移します。自身の蔵も大きなダメージを受けながらも、自分の田んぼを実験田にしながら、農家の方たちに今後の米やお酒への対応や指針について、話をしにいったそうです。
「私も米作りやっていたので、水はり、夏の草取り、秋の収穫という一連の流れを知ってましたから、(それぞれの)段取りごとの施策を話しました。」
講演を聞いた人達からは、「つぎはうちの会合で話をしてくれないか?」という多くの依頼を受け、渡辺さんは福島県内を奔走しました。

豊かな自然の中にある渡辺酒造本店の酒蔵

放射性物質との戦いのはじまり

原発事故直後、渡辺さんは、その時、製造途中だった日本酒を、放射性物質の検出器で調べてもらいました。結果、放射性物質は不検出。しかし、米から作られる日本酒にとっては、原発事故により土壌へ降り注いだ放射性物質が今後の大問題だと渡辺さんはいいます。
放射性物質それぞれの半減期(※1)は、ヨウ素は8日、セシウム134は2年、セシウム137は30年。
「これらは人工的に降り注がない限り土壌中にはほとんどない成分です。特にこのセシウム137(という物質)が(原発事故による被害が)長期化する第一の原因です」と渡辺さん。
「農学土壌学の知見を利用して、稲に吸収させない米作りをしていきましょうと提案しました。」

(※1)放射性同位体が、放射性崩壊によってその内の半分が別の核種に変化するまでにかかる時間。

原発事故と向き合った米作りを説明する渡辺社長

カリウム肥料の有効性

「稲にセシウムを吸収させない米作り。」
それは一体どういったものなのでしょうか?

「セシウムはカリウムと似た性質を持っていますので、カリウムを大量に十分に与えてあげると、稲はカリウムを吸ってセシウムをほとんど吸わないってことがわかったんです。」
学生の頃、化学の時間に勉強した元素記号の並んだ元素周期表。横並びに暗記した記憶がありますが、生命体は、縦系列の同じ系列に属するものを、「似たもの同士」として扱うのだそうです。セシウムイオンとカリウムイオンは、その縦系列の同じ系列にあるものなのです。稲にとって、カリウムは必要な要素のため、カリウム肥料を先にたっぷり吸わせてやることで、その後は、カリウムや同じ系列の物質は吸わなくなるというのです。
渡辺さんは、カリウム肥料を土壌に与えることを農家さんたちに推進しました。しかし、カリウム肥料は化学肥料。「本当に入れてもいいのか?」と半信半疑の農家もいたといいます。収量をあげたいところでは以前からカリウム肥料を使用していましたが、カリウム肥料を入れなくてもいい地力を持つ田んぼの農家や、有機栽培をうたっていた農家にとっては、化学肥料を使わないことで差別化をはかってきた取り組みを捨てることになるため、とてもむずかしい選択でもありました。
「今まで頑張って来たのに有機栽培じゃなくなる、これは怖いです。でもこの年(2011年)だけは割り切ってほしいとも話しました。(セシウム吸収抑制のための)カリウム肥料の有効性は確実にあるんです!」
渡辺さんは、専門的な話を、誰にでもわかりやすく、米作りを知っている者の目線から、農家の方達に粘り強く説いてまわったのです。

化学的な話しをわかりやすく取材スタッフに説明する渡辺社長

福島県産品を引っ張ってゆく酒造業界の役目

そして渡辺さんたちは、福島県酒造協同組合として、酒造りに関する厳しい規定を設けました。放射性物質に関して検出下限値10ベクレル以下を「ND(No Detectable)=不検出」と設定し、「ND」の原材料以外は絶対使わないというものです。その当時、食品安全委員会が一般食品に安全と設定した数値は100ベクレル。福島県酒造協同組合は、その基準の10分の1という本当に厳しい基準を独自に設定したのです。

現在、渡辺酒造では福島県産の米の使用率は98%。残りの2%は、福島県では気候が合わず、十分に作ることができない酒造好適米「山田錦」を兵庫県から入れているのみだといいます。
このように、厳しい基準をクリアした福島県産米を多く使うことで、県産品の消費を増やし、日本酒として全国に広めることで福島県産品の安全性をアピールしていくという役目が今の福島の酒造業界にはあると、渡辺社長はいいます。

渡辺酒造の蔵で仕込み中の醪(もろみ)

この蔵の酒造りに使われる米の98%は福島県産で、きびしい安全基準をクリアしている

幾多の困難に立ち向かいながら

もうひとつ、福島県の酒造業界では震災前から大きな取り組みをしていました。それは、福島県産清酒の質を向上するために、10年以上前から酒造メーカー同士が横のつながりをつくり、杜氏や蔵人たち製造技術者たちの技術情報交換をおこなってきていたのです。これは酒造業界では珍しい取組みです。
この技術情報交換の取り組みの先導役の一人としてきたのが渡辺社長でした。提唱しはじめた頃は、自分たちのノウハウを公表することに否定的だった蔵元も、渡辺社長達の熱心な説得で、だんだんと歩み寄ってきたといいます。
「福島の酒はうまい!」が定着すれば、それぞれの商品の評価も必ずあがる。日本酒業界における戦略として、個の力よりも「チームの力で切り開いていく」この試みは、10年の年月をへて、ようやく花開くことに。全国新酒鑑評会における県単位の金賞受賞数が、平成24年には2位になり、平成25年、26年には、なんと受賞数1位となったのです。
原発事故による風評被害から、自らその基準を厳しくすることで安全性を担保し、なおかつその福島県産米を使い、日本一「うまい酒」をつくる県として福島県の酒造業界は蘇りつつあります。

多くのお酒を取りそろえる渡辺酒造本店の店舗

福島の未来

地域に密着した酒造りを続ける渡辺酒造。近年では、平成24年5月に行なわれた「全国新酒鑑評会」にて金賞を受賞。「平成24年福島県秋季鑑評会」にて、吟醸の部・純米の部の両部門で「雪小町」が県知事賞をダブル受賞するなど、注目されています。

なにかうまい酒造りのために特別なことをしてるのかを聞いてみると
「うちでは、蔵で音楽かけるんですよ」と渡辺社長。
-音楽を聴かせると、酒の味に変化がでるんですか?
「さぁ、どうなんですかね?」
-どんな曲をかけているんですか?
「ZARDの"負けないで"をかけるんですよ。」
-風評被害に負けないように?
「いやいや、それもちょっとあるけど、わたしの好きな曲だってだけ。意味ありそうでしょ?」
と、大声で笑いながら答えていただきました。
この明るさも、これからの福島復興の大きな原動力になるに違いありません。

渡辺酒造自慢の「雪小町」

このページをSNSでシェアする

関連記事をさがす

トップページへ戻る