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被災牛がふるさとの景観を取り戻す、メリットいっぱいのエコ除草

2018.11.18

一般社団法人ふるさとと心を守る友の会

2011年、任意団体「家畜おたすけ隊」として発足。2012年に法人化。原発事故によって避難を余儀なくされた福島県双葉郡の9市町村を中心に、取り残された牛たちに「除草」という役割を与えて生かすことを推進しました。牛の習性を利用した除草は、エサを購入する費用がかからないだけでなく、環境保全や景観美化にもつながっています(写真:代表の谷さつきさん)。

個性豊かな草刈り隊「もーもーイレブン」とは?

いわき駅から車で1時間ほど。国道288号線沿いに「もーもープロジェクト」の看板は立っていました。帰還困難区域のため立入許可証なしでは敷地内に足を踏み入れることはできませんが、道路脇から看板の向こう側をのぞきこむと、山の手前に短く揃った緑が見えました。このきれいにひらけた部分、実は被災した牛たちが除草した場所なのだそう。「もーもープロジェクト」では11頭の牛たち、通称「もーもーイレブン」が草刈り隊として活躍しています。牛たちによる草刈り(除草)とはどんなものなのか?プロジェクトを運営している代表の谷さつきさんを訪ねました。

看板の右側が国道288号線、左奥に牛たちの放牧スペースが広がっています

牛たちによる除草はメリットがいっぱい!

たっぷり自然のごはんを食べて、土地をきれいに維持する。それがもーもーイレブンたちの仕事です。「牛たちは仕事だと思っていないですけどね」と谷さんは笑います。牛が1日に食べる草の量は、1頭あたり約60kg(!)。牛のエサというと乾燥させた牧草をイメージすると思いますが、葛やよもぎ、田畑をだめにするといわれる背高泡立草まで、牛たちは草ならほぼ何でも食べるのだとか。足や角をうまく使いながら、人の背丈ほどもあった雑草の山を踏みならし、きれいに草刈りしてくれるのです。

「牛たちが除草してくれることのメリットはたくさんあるんですよ」と谷さん。大きく5つの利点があるそうです。

(1)山火事の拡大防止
(2)犯罪の発生予防
(3)景観の回復・維持
(4)害虫や野生動物の大量発生の抑止
(5)自然や動物、故郷を大切に思う心を守る

さらに、牛たちが草を食べることでできる「カウベルト」と呼ばれる一帯は、人と野生動物の衝突を防いでくれます。野生動物は基本的に身を隠せる場所を選んで行動するので、きれいに除草された土地を無理に横断することはありません。また、土の栄養を奪う雑草を牛たちが食べ、フンを排泄することで土が肥やされます。牛を放牧し、除草してもらうことは、人、自然、動物、すべてに利点があるのです。

放牧されている牛たち。手前にあるのは電気柵です。杭を打ち込み、ワイヤー線を引いて、ソーラーパネルにつなぐだけなので、早ければ2時間ほどでつくることができるそう

地震で逃げた牛たちの周りだけ、雑草がなくなっていた

そもそも、どうして谷さんは福島で「もーもープロジェクト」を立ち上げたのでしょう?

「2011年の4月に、お昼のニュースで被災した家畜たちの悲惨な状況を初めて知りました。なかでも深刻だったのが、エサの量が多い牛や馬たちでした」

東京で働いていた谷さんは、何かできることはないかと探しました。酪農も畜産も知らない。そんな自分でも、情報収集ならできるかもしれない。そう考えた谷さんは、地元の新聞に細かく目を通し、役立ちそうな情報をピックアップして農家の方々と共有しました。集めた情報をインターネット上に公開したところ、そのブログを見た農家の方々から複数のメールを受け取ります。「こっち(福島)に来て助けてほしい」。福島と東京を行き来する生活が始まりました。

6月。一時帰宅の許可が下りると、農家の方々はまっさきに畜舎にエサを運びました。ヤギなどの小型な動物ならまだいいのですが、1日に数十キロの牧草を食べる牛たちに、一時帰宅の限られた時間で十分なエサを与えることは不可能です。大量の牧草をどこから入手し、どうやって畜舎まで運んだらいいのか。頭を悩ませていたあるとき、谷さんの目にとまったのは、きれいに除草された区画でした。

「地震で畜舎から逃げ出した牛たちがいた一帯だけ、雑草がなくなりきれいに整っていたんです。今思えば、このとき見た光景が、『牛たちによるエコ除草』というアイデアの最初のヒントだったのかもしれません」

(写真左上から)背高泡立草などの雑草が生い茂り、青色の屋根がわずかに見える程度だった場所
→(写真右上)牛たちが雑草をモグモグ食べてくれ......
→(写真下)すっかり除草され、小屋全体が見えるまでになりました。

雑草で覆われた畑と、エサ不足の牛たちをつなぐアイデア

またあるとき、手入れができず雑草で覆われてしまった畑を見て、農家の方がぽつりと呟きました。「雑草を牛が食べてくれるのが一番いいんだけどな......」。

牛たちはエサが足りない。雑草の手入れができない田畑はどんどん荒れていく。それらを牛たちが食べてくれれば、エサの確保と農地の保全、どちらも叶うのではないか。このアイデアは、結果的に避難区域に残った家畜たちを殺処分から救うことにつながりました。

それまでは困っている農家さんたちを個別にお手伝いしていた谷さんでしたが、現在は「もーもープロジェクト」を立ち上げ、自らの団体で管理・運営しています。生活拠点も東京から福島県双葉郡に移しました。

「『移住』と言われるとぴんとこないんです。移り住もうと思っていたわけではなく、必要に迫られて、気づいたらこっちに住んでいた、という感じですね」と谷さん。そう答える谷さんの笑顔はすがすがしく、今はこの町で取り組みたいこと、進めたいアイデアで頭がいっぱいなのだと分かりました。

牛たちのエコ除草によってできた「カウベルト」。
写真中央の開けた土地の、下半分が「除草前」、上半分のきれいに整ったエリアが「除草後」です

大切なのは、循環の輪をつなげていくこと

農業について何も知らなかった谷さんが活動を始めて早7年。目の前のことを必死で解決しようと動き続けるうちに、ある変化を感じたといいます。それは、既存の農業のシステムや、環境問題にまで視点が広がったこと。

例えば、農家の仕事は大半が肉体労働です。多くの時間が、エサやりやフンの処理など、家畜の管理に当てられており、今までそれが当たり前でした。しかし、そうした肉体労働は、牛たちのエコ除草によって大幅に減らすことができます。放牧しておけば大量のエサを運ばなくていいし、エサ代もかかりません。自然に排泄されたフンは肥料になるので、わざわざ運び出して処理する必要もない。海外から輸入していた牧草が、実は環境破壊を引き起こしていたことも知りました。「循環の輪をぶつ切りにしてはいけない」。谷さんはそう痛感したそうです。

「ここは、何をするにも日本で一番大変な土地です。電気も通っていない。水もない。水路や農道といった、農地の機能が震災で壊れてしまっている。帰還困難区域なので、立入に制限があり、午前9時から夕方の4時までしか活動ができない。早朝と夕方にも作業をするのが一般的な農業において、この時間の制約はなかなか厳しいものがあります。でも......だからこそ、この場所で牛たちのエコ除草・環境保全の省力モデルを築くことができれば、日本中に展開することができるんです」

もーもープロジェクトでは、寄付金のほかに一口オーナー(1カ月、一口1,000円から)も募集しています。もーもーイレブンたちの活動を、あなたも支援してみませんか。

谷さんと、もーもーイレブンの「カール」。
毛並みがカールしていることから命名されました

一般社団法人ふるさとと心を守る友の会

〒979-1307 福島県双葉郡大熊町野上姥神

HP
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Facebook
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