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馬から生きる力を学ぶ -岩手の古民家で心のケアと地域文化の再生を

2017.12.13

三陸駒舎

「馬と古民家で暮らし、馬から生きる力を学ぶ」と掲げ、2015年4月に設立した団体です。岩手県には馬と共に暮らしてきた歴史がありました。その頃に使われていた古民家「南部曲り家」を再生し、2頭の馬を飼育。古民家の暮らしを体験するツアーやホースセラピーなど、馬と共に地域の未来を切り開く活動を行っています。

感情を抑え込む子どもたち

三陸駒舎の理事を務める黍原豊さんは、震災前から子どもの育成に関わる仕事をしていました。大学時代は岩手の森林保護に携わっていましたが、広く「地域づくり」を考える中で、次世代を担う「子ども」へと目を向けるようになったのは自然な流れだったといいます。東日本大震災の後は、岩手県釜石市で子どもたちを支える活動を行ってきました。

「仮設住宅で暮らす子どもたちと話していると、『これで遊んでもいい?』『あそこに行ってもいい?』と、子どもたちが逐一許可を求めてくることに気がつきました。『やりたい!』という自分の自然な感情を押し殺しているように感じたんです」

黍原さん自身も仮設住宅に住んだことがあったので、子どもたちがそう言ってくる気持ちがよく理解できました。仮設住宅の壁はとても薄く、ちょっとした物音も隣に響きます。誰もが「迷惑をかけないように」と周囲に気を遣って暮らしていました。子どもも例外ではなく、仮設住宅での暮らしが長くなるにつれ、自分の感情のままに動くことをしなくなっていたのです。

「子どもたちが本来持っているはずの、豊かな感情表現を取り戻さなくては」、黍原さんは次第にそんな使命感を抱くようになりました。contents_image1.JPG

三陸駒舎の理事・黍原豊さん

馬が子どもたちを笑顔にした

子どもたちへの接し方を模索する中で、黍原さんは「ホースセラピー」と出会います。障害を持った子どもたちのケアのために、日本各地で牧場を運営しているという方から話を聞き、ホースセラピーは釜石の子どもたちにも効果的なのではないかと考えました。

アニマルセラピーの中でも、特に馬がもたらすさまざまな効果は世界中で認められています。ドイツでは、リハビリなどのための乗馬が保険適用内となっているほど。子どもにとっても効果は大きく、自分よりも大きな動物の世話をすることで、「私にもできた!」「自分には価値があるんだ」と自信回復につながるといわれています。

そこで、試しに馬と子どもたちがふれあう機会を作ってみることにしました。2015年5月、3頭の馬を釜石に招き、1週間かけて仮設住宅や保育園、幼稚園を回りました。黍原さんは、その時の子どもたちの様子がとても印象に残ったといいます。

「もう、10分も経たないうちに子どもたちの表情が変わっていました。みるみるうちに生き生きとして...。子どもたちに元気になってもらいたくてあれこれ手を尽くしてきましたが、一瞬で『負けた!』と思いました。それほど、子どもたちが楽しそうだったんです」

想像以上の効果を目の当たりにした黍原さんは、本格的に馬を迎え入れる準備を始めました。contents_image2.jpg

馬とふれあう子どもたち。餌やりやブラッシングをして馬に慣れたところで、背中に乗せてもらいます

「懐かしい」--釜石に根づく馬文化

実は岩手県は、もともと馬と縁のある土地でした。かつては「南部馬」という日本固有の馬がたくさんいて、人々は母屋と馬屋が一体となった「南部曲り家」に住んでいました。馬はつい20年ほど前まで人と一緒に暮らし、畑を耕したり、木材を運んだりしてくれる大切なパートナーだったのです。ですから、突然馬がやってきた時も、釜石の人たちは驚くのではなく、「懐かしいなぁ」と声をかけてくれました。

その歴史を知った黍原さんは、「釜石に馬が来たら、ものすごい地域資源になる」と確信し、本格的に馬と暮らす術を模索し始めました。ホースセラピーだけでなく、「人と馬が共に暮らす」という岩手の文化自体も後世へ伝えていきたいと、かつての「南部曲り家」で馬を飼うことを決意。空き家になっていた古民家をボランティアと共に改装し、その家に2頭の馬を招き入れました。contents_image3.jpg

田畑を耕すだけでなく、雑草を食べてくれたり、糞尿に栄養が詰まっていたりと、馬は農家にとってとても大切な存在でした

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改装した南部曲り家には'かまど'があります。子どもたちを招いて古民家の体験ツアーを行うことも

東北の次世代のために、まず"心の復興"を

三陸駒舎では、毎月ホースセラピーの体験会を行っています。餌やりや乗馬を通じて馬とコミュニケーションを図るものです。ある時、3歳の男の子がやってきました。「乗り物に一切乗らないので、乗馬は難しいと思います」とお父さん。しかし馬を見ているうちに、男の子が突然腕を馬の方へ伸ばしました。思い切って乗せてあげると、馬の背中に頬を押し付けて、とても満たされた表情になったのです。

「あの子の表情と、あの場に流れた温かな雰囲気は忘れられません。私やご両親だけでなく、その場にいた大人たちがみんな笑顔になっていました。子どもが元気になると、大人も元気になるんですよね。馬の力を借りれば、地域全体を元気にすることができると改めて実感しました」

馬は、相手の態度や気持ちを察するといわれており、威張ったり、必要以上に怖がったりする相手の言うことは聞きません。馬を通じて自分の態度を省みることができるので、ヨーロッパでは企業のリーダーシップ研修にも馬が活用されています。「ケア」というだけでなく、「人格形成」という面でも、馬は子どもたちに大きな影響を与えていくでしょう。

「建物など、ハード面での復興はどんどん進んでいます。ただ、ソフト面--"心"がどれほど復興したのかと考えると、まだまだ先は長いと思います。馬と共生することで心をケアし、そして成長させ、東北の次世代を担うような人材が育てばと願っています」

人々の心のケア、そして馬文化の再生のために--。岩手・釜石で、三陸駒舎は人と馬との豊かな暮らしを目指しています。contents_image5.jpg

馬の背中にしがみついて離れない男の子。周りの大人たちも温かく見守ります

一般社団法人三陸駒舎

住所:岩手県釜石市橋野町9-44-7

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