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経験を防災の学びに 「3.11仮設住宅体験館」

2022.01.06

3.11仮設住宅体験館

2021年10月、被災者が実際に使用していた仮設住宅で宿泊体験や室内見学ができる施設として利用が開始された。陸前高田市が「仮設住宅の様子を全国に伝えたい」と整備を進めた。事前予約制。見学は無料。宿泊は陸前高田市「道の駅 高田松原」などが実施する有料の防災・観光体験プログラムへ申込が必要。

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避難生活の工夫に気づきを得て

岩手県陸前高田市で、「3.11仮設住宅体験館」の宿泊・見学体験が始まりました。旧米崎中学校の校庭に建設されたプレハブ作りの仮設住宅で、当時被災された方が実際に使用していた建物が「3.11仮設住宅体験館」として利活用されています。

3.11仮設住宅体験館のレポートに加え、市から業務委託を受け施設管理をおこなう一般社団法人トナリノの佐々木彩花さんと、3.11仮設住宅体験館の語り部、佐藤一男さんにお話を伺いました。

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仮設住宅の生活を想像し、体感して

仮設住宅は全世帯が退去した後、2棟8戸だけを解体せずに残し、宿泊が可能な建物として改修されました。そのうちの1室が「展示室」として、見学に利用されています。
展示室では、圧迫感を感じるほどの狭さ、物が置かれるとどうなるか、隣の部屋の音、暑さ寒さに気づいてもらえるように、と佐々木さん他スタッフが整備をしました。

展示室には、人が1人入れるほどの風除室があり、玄関を開けるとすぐに収納ラックに置かれた電子レンジ、洗濯機などの家電や、調理器具、掃除用具が目に入りました。
「帰宅して、大きい荷物を持っていたら通ることが大変そう...。」
「買ったものをどこに置いていいんだろう。」
そんなことが頭に浮かびました。

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玄関を開けると左に家電置きのラック、
右に背の高いゴミ箱がある


当時の生活をより具体的に伝えるために、仮設住宅で生活をしていた方にヒアリングをしながら、当時に少しでも近づけるように工夫したそうです。

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3世代4人の生活を想定した居間スペース

この展示室の中には至るところに、コメントが書かれた吹き出しが貼り出されています。仮設住宅で困ったことが記載されていますが、それだけではなく「こんな風にして乗り切った」という、実際に生活したからこそ見える視点も書かれています。

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「風除室に洗濯物や野菜が置かれていた」
当時の暮らしぶりを伝える

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風除室の下駄箱。
収納の課題に対する工夫もあちこちに見られた

大変だと嘆くだけではなく、工夫をして前を見て乗り切ろうという、被災された方の声が聞こえるようで、思わず全部を読みたくなってしまいます。

佐々木さんに実際に宿泊体験された方の感想を伺うと、「思ったより狭い、寒い」という感想が多いと教えてくれました。しかし、それとは反対に「思ったより狭くない。都内の普通のアパートと同じ。」との声もあったそうです。

「住宅の面積だけで考えると確かにそうかもしれません。でも、この地域の人たちの震災前のお家は広くて大きいし、1世帯の人数も多いです。震災があって、急きょこの狭さになっていることに、圧迫感や閉塞感を感じていたそうです。苦労した理由は、地域性なのであって、物理的な広さではないんです。」と佐々木さん。

その感覚は、間違えのないように伝えていると、教えてくれました。

災害の傷を広げないことはできる

この施設で語り部をされている佐藤一男さんにもお話を伺いました。

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佐藤さんは、牡蠣の養殖業をしていた45歳の時、東日本大震災が発生。家族は無事でしたが、自宅と漁業船と牡蠣の加工場を失いました。「住宅ローンもあったし、船と加工場は一念発起して、新しくしてまだ1年だった時でした。」と佐藤さん。

佐藤さん自身も被災者でありながら、避難所の運営役員、仮設体験館の近くの仮設住宅の自治会長を務めました。その経験をインターネットで発信したことがきっかけで、防災講演を行うようになったそうです。より確かな情報と、命を守る大切さを伝えるため防災士の資格を取得されました。震災後は、東日本大地震を伝承する活動にさまざまな角度から取り組んでいます。

防災の見直しのきっかけに

佐藤さんのお話は、体験館の見学、宿泊のオプションとして聞くことができます。
「伝えたいのは、災害が起きたその時、あなた自身やあなたの家族を守れますか?また、その後続く生活のイメージはできていますか?ということですね。『大変だったね』で終わって欲しくないんです。だから壁の熱さ、冷たさ、結露、隣の生活音を体感して、こういう場所で暮らす身体と気持ちのリスクを知ってほしい。自分を守るのは自分だから。知識の備蓄もしておいてほしい。」と佐藤さん。
この場所に来てくれた方には、時間の許す限り話したいし、質問もあれば聞いてほしいのだそうです。

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伝承活動に取り組んでいた佐藤さんが、涙が出るほど嬉しかったことがあると言います。
佐藤さんは震災後、避難所の運営者として、その経験をインターネットに上げることも行っていました。そんな時、熊本地震が発生。佐藤さんは、現地の避難所の運営サポートに出向きます。すると現地の方に、
「佐藤さんのことは、ネットで見ていました。記事も読んで、これから起きる問題もイメージできたので、本当に助かりました!」と声をかけられました。「はぁ......。やっていてよかった」。自分の活動が役に立った、と心の底から思える出来事でした。今でも「多くの人に届け!」という想いで、伝承活動を行っています。

「いつ、誰が仮設住宅に入るかわからない。その時、あなたの家族構成で、仮設住宅で暮らす知識と準備はありますか?」という佐藤さんの問い。
その答えは、実際に見て聞いて、準備の大切さに気づくことができれば見つかりそうな気がしました。

普段のつながりが助け合いになる

静岡県出身で震災後に陸前高田に来られた佐々木さんも、佐藤さんの話を聞いて自分の備えに対して腑に落ちたことがあったのだそうです。
「自分の家族や自分自身の命は自分で守る、ということでした。自分自身がきちんと行動してから、周りに対して気を配ることがやっぱり大事だということ。自分は大丈夫だろうと、絶対に思っていてはいけないという教訓を得ました。あとは、地域コミュニティの大切さですね。例えば、あの家にはおばあちゃんが1人で住んでいるとか、こっちの家は、乳幼児がいるから持ち物が多くて避難するのに時間がかかりそうだなとか、若い人や体が動く人が把握しておく。そうすることで、『すぐに助けないといけない』とか、『みんなで助けよう』という避難行動につながっていきます。」と佐々木さん。

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「コミュニティの作り方は、地方と都市部では、方法が違うかもしれません。それでも、隣人には挨拶をしてみるとか。いざ災害が起きても、自分という人がここにいることを知っている人がいないと困りますよね。地方の密なコミュニケーションとちょっと違うかもしれないけれど、大都市ならではのコミュニティ作りもあると思うんです。」
震災当時のこの地域のことは知らない佐々木さんも、この活動を通して気づきを得ているようです。

災害が起きた時、どこに仮設の住まいができるのか。何年住むことになるのか。そこで暮らし続けることはできるのか。仕事がなくなる可能性もある。防災グッズ以外の備えや、暮らしのイメージがあるのか。
まずは気づくことから。それは、体験するからこそ生まれるものだと思いました。

3.11仮設住宅体験館は、その気づきを与えてくれる場所です。

【取材・記事執筆】
一般社団法人トナリノ 板林 恵

2022.03.31

岩手三陸の玄関口としての役割を担う、道の駅高田松原と東日本大震災津波伝承館

道の駅高田松原・東日本大震災津波伝承館

3.11仮設住宅体験館

住所 岩手県陸前高田市米崎町字神田113番地101
(旧陸前高田市立米崎中学校)
電話 090-2114-9038(平日 9:00〜18:00)
Mail info@311kasetsu.com

HP
http://311kasetsu.com/
見学・宿泊に関する詳細は、ホームページよりご確認ください。
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